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ピクトグラムの著作物性を認めた事案

ピクトグラムの著作物性を認めた事案
大阪地裁 平成 25年 (ワ) 1074号
2015年9月24日判決

本件は、ピクトグラムの著作物製を認めたおそらく最初の判決であろう。
わが国においてピクトグラムは、前回1964年の東京オリンピック以来普及し、多用されている。代表例は非常口を示す図柄やトイレを示す図柄である。文字による表現に代えて図柄で表現することによって、文字を読めない人にも情報を伝えることができるツールであり、文字と同様に情報伝達のための道具である。

そこで、ピクトグラムの著作物製を考えるに際しては、書体(フォント)の著作物製に関する判断を参照する必要がある。本件判決も同様の手法を採用しており、「ゴナ事件」の最高裁判例を引用している。ここでは「顕著な特徴」「美術鑑賞の対象になる」というハードルが示されている。

[ゴナ事件・最高裁]
著作権法2条1項1号は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と定めるところ、印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。この点につき、印刷用書体について右の独創性を緩和し、又は実用的機能の観点から見た美しさがあれば足りるとすると、この印刷用書体を用いた小説、論文等の印刷物を出版するためには印刷用書体の著作者の氏名の表示及び著作権者の許諾が必要となり、これを複製する際にも著作権者の許諾が必要となり、既存の印刷用書体に依拠して類似の印刷用書体を制作し又はこれを改良することができなくなるなどのおそれがあり(著作権法19条ないし21条、27条)著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与しようとする著作権法の目的に反することになる。

本件判決は、この判例を前提としつつ、ピクトグラムは創作の幅が限られているとしつつも、本件ピクトグラムは個性が表れており美術鑑賞の対象になると認定している。
以下に判決の抜粋を示す。
通天閣
大阪城
京セラドーム


(4) 争点5-1(本件ピクトグラムの著作物性)について
ア 著作権法において保護の対象として定められる著作物は,「思想又は 感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」をいう(同法2条1項1号)。
本件ピクトグラムは,実在する施設をグラフィックデザインの技法で 描き,これを,四隅を丸めた四角で囲い,下部に施設名を記載したもの である。本件ピクトグラムは,これが掲載された観光案内図等を見る者 に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され,実際にも相当 数の観光案内図等に記載されて実用に供されているものであるから,い わゆる応用美術の範囲に属するものであるといえる。
応用美術の著作物性については,種々の見解があるが,実用性を兼ね た美的創作物においても,「美術工芸品」は著作物に含むと定められて おり(著作権法2条2項),印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定されていること(最高裁判所平成12年9月7日判決・民集 54巻7号2481頁参照)からすれば,それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には,美術の 著作物として保護の対象となると解するのが相当である。

イ 本件ピクトグラムについてこれをみると(侵害が問題となっている別 紙1の19個に限る。),ピクトグラムというものが,指し示す対象の形状を使用して,その概念を理解させる記号(サインシンボル)である以上,その実用的目的から,客観的に存在する対象施設の外観に依拠した図柄となることは必然であり,その意味で,創作性の幅は限定されるものである。しかし,それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか,そのためにもどの角度からみた施設を描くのか,また,どの程度,どのように簡略化して描くのか,どこにどのような色を配するか等の美的表現において,実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる。このような図柄としての美的表現において制作者の思想,個性が表現された結果,それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている場合には,その著作物性を肯定し得るものといえる。
この観点からすると,それぞれの本件ピクトグラムは,以下のとおり,その美的表現において,制作者であるP1の個性が表現されており,その結果,実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているといえるから,それぞれの本件ピクトグラムは著作物であると認められる(弁論の全趣旨)。

レガート知財事務所
弁理士 峯 唯夫
http://legato-ip.jp/
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著作権切れの著作物の複製

著作権切れの著作物の複製
平成 27年 (ワ) 731号
大阪地判2015年9月24日

著作権が切れた著作物を複製する行為が著作権侵害にならないことは明らかですが、原告は「所有権」と「商慣習」を理由に民法709条の不法行為にあたると主張しています。
この主張に対して裁判所は、不法行為にあたるためには「商慣習」が「慣習法」となっていなければならないとし、複製に対して対価を払っている者がいるとしても、未だ「慣習法」とはなっていない、として原告の主張を退けています。
なお、「慣習法」とは、法の適用に関する通則法 第3条に規定されており、「公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。」というものです。
判事事項としては特に新しい点ははありませんが、実務での参考のために紹介します。

以下判決の抜粋を示します。

(所有権について)
原告は,本件において,本件教材への本件錦絵の掲載が,原告の許諾を受けて撮影された本件錦絵写真をさらに複写ないし撮影するなどの方法でなされたことを問題にしているが,そこで利用の対象となっているのは,有体物である本件錦絵そのものではなく,有体物である本件錦絵を撮影して得られた写真から感得できるところの本件錦絵の美術の著作物としての面,すなわち無体物としての面であるから,被告の行為は,その行為態様だけでなく,その利用対象の面においても,有体物である本件錦絵の排他的支配権能をおかすものでないことは明らかである。
したがって,そこでは本件錦絵の所有権侵害は問題となり得ないから,原告が予備的請求原因として主張する所有権侵害の主張はこの点で明らかに失当である。

(商慣習について)
事実上の商慣習に違反しただけでは不法行為法上違法とはいえないことは明らかであるから,ここで問題とされるべきは,少なくとも,それ自体で法規範足り得る商慣習法である必要があるが,商慣習法が存在すると認められるためには,事実上の商慣習が存在し,それが法的確信でよって支持されていることが認められなければならない。

これら事実によれば,著作権の存否とは関係なく,著作物の無体物の面の利用については,その所有者から許諾を得ることが必要であったり,対価の支払を必要としたりすることが一般的になっており,そのような慣習が存在するように見受けられるところである。
しかし,原告所蔵品の映像は一般に入手可能であるのに,その利用のため,原告の定める利用規定に従って契約締結をするという上記の前者の中には,原告所蔵品の文化的価値を尊重して,その対価支払が当然と考えてしている者もいるであろうが,そうでなく,本件錦絵の所有者である原告との紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するため,原告の定める利用規定に従っている者もいるであろうことは容易に想像できるところであり(原告は,利用規定に従わずに原告所蔵品の映像等を利用した者に対する訴訟を複数回提起している(乙1,乙2,弁論の全趣旨)),その点をおいたとして,その対価の支払根拠は,結局,原告との合意に基づくことになるから,このような事実関係から,原告主張に係る商慣習又は商慣習法の存在を認めること はできない。

博物館等については,あたかも著作権のない無体物を有償利用させているように見えるが,その利用者は,直接写真撮影をできない所蔵品等について写真映像を利用することができることから,博物館等から資料写真の写真原版を借り受け,その対価(対価額は少額にとどまる。)を支払っていると考えられ,そこには対価を支払う経済的合理性も認められるし,なによりそのような有償契約を利用者に求める根拠は,所蔵品の所有者としての博物館等の所有権の権利行使としても,写真原版自体の所有権行使としても説明できるものであり,必ずしも原告主張に係る商慣習又は商慣習法の存在を認めさせ得るものではない(なお,博物館等が,館外所蔵者の所蔵品の資料写真の写真原版を貸し出す場合に,その利用につき所有者の許諾を求める扱いとされているのは,その資料写真の被写体となる所蔵品の所有者によるその公開範囲を決する権能を受けてされているものと解されるのであって,これも結局,所有権の問題として説明され得る。)。

原告が商慣習又は商慣習法で保護されると主張する利益は,著作権法の保護しようとしている利益と全く一致しているものであるところ,著作権法は,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を与え,その権利の保護を図り,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,その発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その権利の範囲,限界を明確にしているところであるから,著作権法が保護しようとしているのと同じ利益であり,しかも著作権法が明確に保護範囲外としている利益を保護しようとする慣習は,著作権制度の趣旨,目的に明らかに反するものであって,それが存在するとしても,そこから進んで,これを法規範として是認し難いものである。

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弁理士 峯唯夫です。
特許や、意匠・商標・著作権などの「知的財産」を扱う仕事をして35年以上になります。
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